スタートラインに並ぶ。
コミッションがシードの6選手を呼び、その選手が列の一番前に並ぶ。
最後に呼ばれる名前は、沖美穂選手。
昨年までの全日本選手権を10連覇。
イタリアの女子チームでプロとして活躍し、
先週は世界女子ロードのもっとも大きなステージレース「ツール・ド・ロード」に参戦していた。
オリンピックへの切符もほぼ確定。彼女の目標はオリンピック出場でなくメダルを取ること。
これから同じレースを走るとは思えないほど異次元の貫禄が漂う。
カメラマンの量が、今まで出場したレースと違ってはるかに多い。今回はオリンピック選考も兼ねたレースだからもあるだろう。
男子との混走もない、女子の単独レース。これが日本一を決める大きなレースなんだと思う。
号砲が鳴り、スタートを切る。
細いコースで下りカーブが続く。カーブで先頭が見えない。
先頭から連なる列に切れないように、カーブで曲がれるギリギリのスピードで走る。
登りの橋で先頭集団が見えた。
すでに私はその次の集団の後方で走っている。
2周目で第2集団がバラけてきた。
私は第3集団、登りで黙々と走る。
荒い息づかいしか聞こえない静けさの中で、前の集団が見えた。
「前が見えてきた、がんばろう。」
と声を出した。
登りで落ちてきた選手と私がいる集団に残った選手と走る。
ホームストレート近くで
「前と近くなっているぞー!」
「4人でガンバレー!」
大きな声援が聞こえる。
掛け声にも、力が入っている。
4人で回す。その中にT選手もいて心強い。
「切られないよう、回しながら行こう。」
とT選手の掛け声が入った。
いいペースで3周を走りきった。
しかし4周目の半分くらいで、私がギアチェンジでチェーンを落としてしまった。
「大丈夫、私はチェーンガードがついているから、あせるな。」
と言い聞かせたが、うまく入らない。
結局自転車から降りてチェーンをかけなおした。
「これでおしまいだ。」
それからはひとり。それまでの緊張感がプッツリと切れペースは落ちて、3段坂の登りもやっと登った。
4周で始まる補給を受け取り、そのすぐ後のゴールラインで私のレースは終わってしまった。
しばらく呆然としていた。
順位を争う位置にいたわけじゃないけれど、
半年前くらいから現実的に見えてきた全日本出場という目標だけに。
このレース後のことは何も考えないで行こうと集中していただけに。
やってしまった。
あわてていた、そのくらいてんぱっていた。
いや、あれが限界でめいいっぱい走ったんだ。
レース終了後、T選手と話しができた。
「一緒に走っていたら完走できたかもしれない。私たち3人も目の前で時間切れだった〜!」
他にも言葉をいただいた。ベテラン選手からだけに、心に染みた。
オリンピック出場が掛かった、日本一を決める大舞台。
初めて走った広島のコース、距離の長いレース、
そして一緒に完走を目指して走った3選手との緊張し張り詰めた時間。
こんなレースを走ったことこそが、いい経験なんだ。
たくさんの人に応援してもらい、
チームの方々にサポートしてもらい、
自分が満足すれば、みんなも良かったと思うのだから、
チェーンを落とさなくても走り切れなかったかもしれない、
力は十分に出し切った、これでよかったんだ。
…と自分に言い聞かせた。
しかし時間が経つにつれ、悔しい気持ちがじわじわと沸いてきた。
この悔しさをバネにして、これからもガンバリます。
たくさんの方に応援をいただき、ありがとうございました。
チームの方々、サポートしてくださった方々、ありがとうございました。
|