渋谷駅の乗り換えホームで偶然、幼なじみのWに会った。
彼とは、今まで幾度となくひょんなところでバッタリ会うのでおかしかった。
近づきながら、10年くらい前に彼は確かビアンキロードを乗っていたのを思い出した。
「これからドイツへ行くんだ。自転車のショーを見に行くんだよ!」
出発の前日、夕飯を食べ終わってから荷造りをした。大阪へでも行くような感じで、慣れてしまったのか、緊張していないし、荷物も少ない。
成田でのチェックインは、自動チェックイン機を使い、カウンターの長い行列に並ぶことなく搭乗券を手にすることができた。荷物を機内へ持ち込むと、旅がさらに日常的なものになっていくようだった。
「読み終わった新聞、交換しません?」
機上にて隣席の日本女性から声を掛けられた。お互いの新聞が異なり、ちょうどよかった。そのことをきっかけにニュースのことから、世間の話に始まり、渡航の目的、仕事のことをお互い話しだした。彼女は、パリ在住10年の日本人。パリの生活やお国柄、政治や教育、日本とフランスのことについて話しはつきなかった。おかげさまで長い飛行時間も短く感じた。と同時に今回の旅は「出会い」に<ついている>と思った。良い人に出会えることが、良い旅になることを長い旅の経験からそう感じとっていた。
昨年ユーロバイクへ向かうバスの中から見えたぶどう畑とボーデン湖が、今年も変わらずに眺められる。
会場に辿り着き、ひとまずざっくりと見て回った。特にウェア関係チェックする。06年の「ジィナー」がヨーロッパでも評判だったのだろうか。それは、デザインを真似て07年モデルにしているメーカーがいくつかあった。そして、ウェアメーカーが集まっているホールへ向かうと、どのメーカーもレディースモデルをこぞって展開していた。しかも赤やピンク、花柄ばかりが目についた。私には派手過ぎのように見えた。周りがこのような中で「ジィナー」はどうなのかと心配していたが、ブースに着きホッとした。落ち着いたカラーリングと新素材の展開をしていた。
この1年間、メールや郵便だけでやりとりをしてきたメーカーと直接顔を合わせて固い握手ができた。これだけでも来てよかった。昨年、初めてこのショーを見たとき、どこのブースでも見た光景だった。男同士の固い握手が、仕事の誓いというか絆というか、表面上の挨拶や形式だけの契約書を結ぶよりもっと重みがあるようでうらやましく思っていた。それを今年は私も交わしたのだ。
「ドライアンダーウェア」のブースでも、笑顔で担当者と握手を交わした。彼と私は、ドライを着ているのを見せ合って、「着ているよね」「良いよね」「うんうん」などと陽気に話した。
旅の間は、ドライを着ていたおかげで快適だった。汗をかいた後に飛行機に乗り、高度が上がって冷える機内でも安心だった。また、ホテルに帰ったら夜のうちに洗って手で絞っておけば翌朝には乾いていたので助かった。荷物が小さく済んだのもドライのおかげだ。
昨年はガチガチに力が入っていたのだろうか。今年は、2回目ということもあり何もかもスムーズだった。全くボラれていない。(昨年は、昼食はボラれ、ホテルも隙あらばボラれそうだった。)
観光案内所のお姉さんに怒られないように、出発の2週間くらい前にメールで宿の予約を希望した。返事は、
「もう満室。当日キャンセルがあると思うから、当日に観光案内所に来て。」
ということだった。しかしその後、契約外のホテルへ連絡してくれ、出発の2日前に予約が決まった。
それは、会場近くの駅から30分くらい電車に乗り、Uhldingen-Muhlhofen駅を降りて徒歩20分位にあるホテルだった。住宅街で周りが静かでよかったが、あまりに外れにあったので、ユーロバイク行きの無料シャトルバスが通っていなかった。翌日は、ワンマンバスを乗り継いでなんとか行くことができた。
3日目の朝、ホテル前の同じバス停で待っていると、予定時刻より早くバスが止まった。
「ユーロバイクへ行くんだけど、いくら?」
運転手に聞くと、何も言わず後ろへ行けと手でサインをする。座っている人を見渡すと、自転車関係っぽい人たちだ。もしかして、このバスはユーロバイク行きの無料シャトルバス?しばらくすると、昨日は止まった次のバス停を通過する。やっぱりそうだ!私が待っていたところは、シャトルバスが止まるバス停ではなかったけど、ひろってくれたんだ!なんてラッキーなんだろう!
そして、この<なんだかついている>は、最高潮を迎えた。
それは、会場を後にし、Romanshorへ向かうフェリーでのこと。ようやくハードな3日間が終わり、ホッとしてボーデン湖を眺めながら席に座わった。すると後方でドカっと重たい荷物を降ろす音がしたので、振り返って見ると、なんとそこには、ゲーリー・フィッシャーがいた!私は、反射的に直立し一礼してしまった。彼はそのまま私の席へ来て話しをしてくれ、
「なんか飲む?」
と言ってくれたが、私はあまりの驚きに
「NO」=(私の日本語では、「とんでもない、いいです。」の意)
と言ってしまい、彼は離れてしまった。写真だけは撮ってもらったけど、少し後悔しながらいつの間にか対岸に着いてしまった。しかしフェリーを降り、乗り継ぎの電車の中で再び会うことができた。
ゲーリー:「やあ、また会えたね。座っていーい?」
私:またびっくり!資料を広げていた。
ゲーリー:「どういう仕事なの?」
私:「サイクリングウェアとテクニカルアンダーウェアを輸入して卸してんだ。」
ゲーリー:「じゃぁ、SWOBOとか知っている?」
私:「知ってる、知ってる!」「どういう仕事してるの?フレームのデザインとか?」
ゲーリー「マーケティングだよ。世界を周っているんだ。」
私:「また日本へは来る?東京は好き?」
ゲーリー:「うん行くよ。僕は、カントリーボーイだから東京は大き過ぎるよ。」
なーんて私のつたない英語でも話しをしてくれた。そして、チューリッヒへ着き、駅でお別れした。10歩くらい歩いて振り返ると、ゲーリーは立ち止まって私を見ていたの!!あ〜、まるで映画の1シーンのようだった。
航空チケットは、格安の乗り継ぎ便がとれたので、ストップオーバーしてウィーンで2泊することにした。
ウィーンは6年前、7ヶ月間の自転車の旅をしたときのスタートした思い出の街だ。私が独立して瞬く間に1年が過ぎたが、初心を確かめる意味も含めて思い切って足を伸ばした。
久々訪れたウィーンは好景気の波に乗り、建物の改築中が多く、路面電車は新型が走っていた。建物が改築中といっても、日本のように古いビルがパッタリなくなり近代的なビルがあっという早さで建てられるのとは違い、外装と柱を残しつつ内装やガラスを変え、時間とお金と手間をかけて歴史ある建物と景観を守るようにしていた。 ユーロが統一され、東ヨーロッパの人々は、ウィーンに集まってきている様子で、観光者だけでなく労働者も含めて街には人があふれ活気があった。
ドナウ川へ向かった。6年前のスタート地点を見たかったのだ。どんなことを想うのか、楽しみだった。
「よくもまあ、旅したもんだなー。」
後先のことなど考えず、次に泊まるとこさえも決めず、まだ春の始まりでキャンプ場だってオープンしているのかわからないのに…その時の「行くぞー!」ってパワーはすごいもんだなと改めて思った。
ドナウ川沿いでは、街中で見たような自転車ではなく、サイクリングウェアを着たスポーツバイクに乗っている姿が多かった。ランニングやローラーブレード、自転車もロードやツーリング、いろいろなスタイルで自分のペースでスポーツを楽しんでいるようすが見られた。
最後にも出会いがあった。帰りの飛行機では、ウィーン在住20年の日本女性が隣だった。ウィーンでの生活や社会、仕事、オーストリア文化や人種、学校教育、家族の話しなど実際に生活している人の貴重なお話を聞くことができた。彼女も私のことに興味を持って話してくれ、
「いろんな国の人と仕事をして、その国民性が見れて面白いんじゃない?」
と聞かれたが、まだまだ楽しめる余裕はない。日本人とは、感覚が違いがありすぎてヤキモキすることがたまにある。でもユーロバイクで会って固い握手したことを忘れないで、またやっていこうと思う。
旅の中でいろんな人に会って話しをすることで、なんでもない普段の日々のことに気づいたり、自分のことを話すことで自信がついたり、話すことによって目標や夢ができたりする。また、非日常的な時間の中で話すことによって旅をしているのを実感できる。
素敵な方との出会いは、なんだか頑張ろうという、元気が沸いてくる。そして、またいつか会えたら良いなと思いながらこれからを過ごすことができるだろう。
ユーロバイクショーのためだけの海外出張だったら会場を出た後は、レストランに入っておいしいものを食べながらビールを飲んで海外気分を味わっているだろう。それよりも日本へ帰って仕事をして自転車に乗りたいと思う。しかし私は、陽が傾くまでカメラを片手に自転車を追っかけ、見たものを残したいとシャッターを押した。とても意味があるように思えるからだ。
今の日本の自転車を取り巻く社会は、こうしようと定義が見当たらない。道路交通法、指導するおまわりさん、車やバイクを運転する人、車道の右側を走る自転車、歩道をスピード出して走る自転車、横断歩道に<じてんしゃ>の白線が引かれていても気にしない歩行者…みんなの自転車に対する意識や認識がバラバラに見えるし、このままでは事故が増えるばかりのような気がする。注意をしても効かないし、道路が広くなることも期待できない。
自転車発祥の地ヨーロッパの自転車文化を目にすることで意識が高まるのではないかと思う。ヨーロッパもすべての道が広いわけでなくまた、人口密度だって高い。その環境の中、どのような過ごし方があるのか自転車のマナー、自転車と遊んでいるようすを写真で見て、それぞれが理想のスタイルを見つけ自転車生活に取り入れられたら良いと思う。そして、自転車を取り巻く日本の環境が良くなることを願っている。
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