「今晩から3日間?この町で泊まれる宿なんてないわよ!」
ちょっと甘くみていたかなぁ...私ひとりくらいどうにかなるかと思って宿の予約はしていなかった。
ユーロバイク会場をあとに近くのインフォメーションセンターで尋ねてみると、強く言い返されてしまった。世界各国からユーロバイクを見に来る人が多いことがうかがえる。「20キロ以上先に行かないとないわよ。」とおねえさんはそう言って、探し続けてくれた。
なんでもいいからうなづく私。付け加えて、「なるべく安いのを...」。
しばらくしてやっと見つかった宿は、そこから電車で30分ほどにあるリンダウという町だ。おねえさんは、電車の時刻表のコピーもしてくれた。
すぐ近くの駅へ行き、自動切符販売機に並んだ。
前の人は、ユーロバイクへ行った帰りでよそ土地者らしく切符の買い方がわからない。
私も一緒になって見てみるがなんだかわからない。
すると通りかがりのおばちゃんがきて、「どこ行きたいの?お金はここへ入れるの。」と言葉なしにちゃっちゃと私の切符を買ってくれた。
リンダウは、ボーデン湖の東の端に浮かぶ小さな島でスイスとの国境とも近い。
中世からある古い町でイタリアとの交易で町が発展していった。
町に着き、湖が見える方へ行くと、シンボルの灯台とライオン像が見え湖畔の周りにはサイクリストがたくさんいた。
2日目の翌朝、バスで会場へ向かう。
9通りもの会場へ向かうシャトルバスがあり、リンダウの町からも始発があった。
会場までの約45分間、昨晩ホテルでカタログを見て考えていたことを整理する。
昨日ざっくり回ったところでメボシをつけたメーカーといかに話しができるか。
オープン前に会場へ着くと、大勢の人が待っていた。午後になれば混雑が予想されるので早めに写真も撮っておかなければと構える、が2時間くらいでバテてしまった。
ちょうどその頃、サイクルウェアのファッションショーが行われる時間で、そのホールへと向かった。
1日に3回あるファッションショーは、ウェアメーカーやバイクメーカー10社くらいが出演していた。
どのメーカーもオリジナリティあふれるストーリーにノリノリの音楽、ダンサーも楽しげに踊っていた。
さて、このあたりで今回ここへ来た本題に進もうと気引き締める。
まず1件目、「GORE」というメーカーへ行く。ゴアテックスの「GORE」だが、日本で見たことはなかった。
シンプルで機能性よくカラー展開もよい。規模は大きく、これだけ良ければ私個人が立ち向かっていけるメーカーではなさそう。けど当たって砕けろでいってみた。
まず、受付でアポをとる。
「担当は誰?」と言われる。
初めてで話しをしたい、スケジュールの時間をとってと伝える。
「アメリカとヨーロッパしか展開してないの。日本?んー、将来ね!また来年〜。」
どっと疲れてしまった。(後日にチューリッヒでスポーツ用品店を見て回ったが、このメーカーはだいぶ流通していた。)
昼飯前でエネルギーも切れていたこともあるのか、その後しばらく椅子から動けなかった。
ウェアのブースは、バイクブースと違ってかなり保守的だった。
カタログがもらえなかったり、カメラを構えると写真を撮ったらダメと駆けつけてきたり、ブースの造りもスペースをパーテーションで囲うようにできていたり。
ファッションのアイデアを見せない、捕られないように気をつけているのが感じられた。
いいグローブを見つけた。
ここのところ、自転車屋に行ってはグローブばかり探していた。体格のわりに小さい手の私は、メンズのSサイズでも大きい。
たまにレディースがあったとしても色は選べないし、100キロ乗ると不具合がでてくる。
それを繰り返し何個も買った。けれど思うようなグローブがないから自分で作ろうとスケッチし、布を探したがそのような布がなかった。
だからこのグローブを見たとき、いろいろ試してきた中でポイントを抑えているのがわかった。
色も豊富でデザインもステキだった。すぐにそのメーカーと話しをした。答えはOK!緊張感が解けるようにホッとしてうれしい気持ちがだんだん湧いてきた。
それから気になっていたのが、アンダーウェア。
ジャージが汗でぺトっと肌についてゾクッとしたことがある。
暑い夏でも100キロくらい乗った後、シャワーを浴びると体は意外に冷えているのがわかる。
冷えと汗まみれの肌にいいのはウールジャージだと思うが、メーカーはなかなか新しく展開していない。
街乗りでも綿Tシャツや綿ショーツで走ると体にべっとりついてくる。
電車やバスに乗ったときも冷やしすぎのクーラーにヒヤッとしたことがある。
アンダーを着ていればと思うことがよくある。数年前は、よく山へ行っていた。
「素肌に近いものをケチってはいけない。」と言われていた。
山では命にかかわるくらいとても重要だからなのだ。
それらが根底にあるから自然とアンダーウエアのブースにも目がいった。
また、DRYと大きくマークがかかっていたからもあった。
手にしてみると、肌触りがいい。ネットで作られてるところがめずらしい。
調理道具にあるフライなどするときに飛び散る油をふせぐ網のフタの原理なんだなと思う。
網だからもちろん通気性もいい。保温性、伸縮性もいい。肌に直接触る内側をみると縫い目に凹凸がない、それもいい。
そのようにメーカーに話すと盛り上がって、取引のOKをもらった。
疲れて早く寝た翌日3日目の朝は、まだ薄暗いうちに起きて写真の整理をする。
デジカメで撮ったNGを捨てる。最後の日、少しでも多くいい写真を撮りたい欲求がでてきた。
その朝も同じルートで会場入り。写真を撮ることに集中する。
前日、確約したメーカーともう一度話しをする。グローブの写真を撮る。サイズの内容を教えてもらう。
こぶし周りを測りインチで表示されている。センチだったらそこに2.54を掛ければいい。そうやってサイズが決まるのを初めて知った。
アンダーウェアのブースへも行ってサイズを確認する。ヨーロッパサイズでだいたい日本サイズと同じだ。
ユニセックスとレディスの展開している。ひとつずつ確認し私がつたない英語で、相手は心配に思ったのか取引の順序も話し出してきた。
最後に私は日本から作ってきた自分のプロフィールと日本のマーケットについてのレポートを渡した。彼は目を通し、硬い握手を交わした。
残りの時間を、駆け足で写真を撮った。
夕方になると会場の人もまばらになってきた。私の体力も尽きてきた。予想以上にいい結果が出せたことに満足しながら、会場を後にした。
またバスに乗って電車に乗り換え、リンダウの町に着く。もうすっかり通勤しているかのようだ。
湖のほうへ歩く。明日の移動でそこから対岸へ行けるか案内板を確かめる。横で見ていたおじさんが一緒に探してくれた。
「サイクリング?」
サイクリング姿だったそのおじさんに聞いてみた。他に5人のおじさん達と湖畔を60キロ走ったそうだ。
平らだったからたいしたことはなかったさ、とドイツ語で教えてくれた。やっと土地の人と話ができ、旅している感じがしてきた。
緊張が解けてゆったりした気持ちになったまま町中を歩いた。
裏通りのオープンカフェで親子二人、食事がくるのを待っていた。
後方に2台の自転車があり写真を撮ってもいい?と声を掛けた。リンダウから12キロ先のキャンプ場をスタートしてきた母と息子の自転車の旅。
湖の周りは、しっかりしたサイクリングロードになってサイクリングマップとリンクしていると教えてくれた。
母と息子の旅がなんともいい。遠くへ行くばかりが旅ではない。二人でスピードを合わせて、自分の力で目標地へ辿り着くのがいい。
走り終わって一杯ビールを飲むお母さんがまたいい。小さい子供と一緒に安心でサイクリングできる環境が、うらやましく思った。
まだ小さい彼にとっては大冒険だったろう。何を見つけて何を感じたのだろうか。
リンダウの最後の朝、やっと宿の朝食が食べられた。ハムやチーズ、パンもいろいろ、牛乳にジュース、果物とバラエティ豊富。
ここの宿の朝ごはんは8:00からで、会場へ行ってたときは朝早いバスに乗るために食べられなかった。
そうしてチェックアウトを頼んだ。すると返ってきた金額がインフォメーションセンターで紹介された金額より多い。
「ちょっと違うと思うんだけど…」
と言うと、あらそうだったかしらというような素振りで現金を戻した。
うーんチップと思えばいいのか、でもチップにしては高すぎる。
ここで返してもらったお札が、帰りデンマークのトランジットで、ランチの貴重なお金になったからよかったものの、私が日本人だからボレると思っているのか…。
ボルなってーの!昨日の昼飯もそうだった。パンを買ってお釣りを待ってもでてこない。
ヨーロッパってそうだった。美しい街並みの景観ばかりではない。
そこらじゅう、犬のおしっこのでくさいし、フンが石畳にへばりついている。美しい女性ばかりでない、すぐふてるし愛想がないのだ。
安宿のタオルはボロだし。そうだった、そうだったヨーロッパって。
その日は、チューリッヒへ移動。リンダウから電車でフリードリヒスハーフェンへ戻り、そこからフェリーに乗って対岸へ、
そこからまた電車でチューリッヒへ行く予定だった。駅へ行き、案内板をみると直行チューリッヒ行きの特急電車があった。
2時間30分で行けるのでそれにした。列車が2つ目の駅に着くと、ポリスが乗ってくる。パスポートの提示だ。
「ここはスイス?」
国境を越えた。それからあまり記憶がない。チューリッヒまでよく寝ていた。
急に都会に来てしまったので辺りをキョロキョロと見回してしまった。
チューリッヒには、スポーツ用品店や自転車交通状況を見て、おもしろいもの探しで3日間滞在した。
5年前の旅でチューリッヒに来たことがあったが、私の見るものがかわったせいか違ったチューリッヒを見ることができた。
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